2014年10月12日日曜日
サバ漁師が、なぜサンゴを取るのか?
サバ漁師が、なぜサンゴを取るのか?
「土佐の清水サバ」。高知県土佐清水市の漁港近くの食堂で、ポスターを見て注文したら、新鮮そうな刺し身が出てきた。今まで食べたことのないようなぷりぷりの歯ごたえだった。宝石サンゴ
高知県漁協が20年も前から、ブランド化を目指してPRを続けている。「『関サバ』まではいかないが中四国では名が通っている」(県漁協清水統括支所の担当者)という。
何十もの針をテグスに付けて海に沈め、かかった魚を一匹ずつ手で外す「立縄(たてなわ)漁法」で釣られる。鮮魚用のサバは生きたまま水槽に入れて港に持ち帰られ、大急ぎで漁協のいけすに入れられる。鮮度を何より大切にしているのだ。
ところが、そのサバの価格が下落し続けている。市の統計によると2009年は1キロ231円。4年前から300円を割り込み、10年前の半値近くになった。宝石サンゴ
サバだけではない。清水漁港で最も水揚げが多く、ダシをとる宗田節の原料になるメジカ(ソウダガツオ)の価格は、20年前より3割安い。
あれほど手をかけて取っている魚が、なぜ安くなっているのか。「消費者の魚離れに加えて、外国産の低価格の魚も店にあふれている。安くしないと買ってもらえない」。県漁協清水統括支所の担当者は、そう話す。
安さを重視する消費の動きは、日本の漁業に直結して、その姿を変えようとしている。
「魚が安すぎて生活がならん」
漁師の岩田幸成さん(51)は、あきれたような表情をみせた。24歳でマグロ船を降りて以来、立て縄漁業を続けてきた。以前は立て縄漁とメジカ釣りで十分生計が立ったが、今は難しくなったという。
岩田さんはいったんサバ漁を休止。4月から「宝石サンゴ」漁にかじを切ることを決断した。
宝石サンゴは装飾品などに使われるサンゴのことだ。明治時代から伝統的な漁法が続く高知は、国内の宝石サンゴ漁獲の3分の2を占める産地だ。赤、桃色、白の3種類の主な宝石サンゴのうち、室戸沖と足摺沖では最も高価な赤サンゴがたくさん取れる。
中国の富裕層に人気がある赤サンゴの価格は、昨年から急上昇している。高知県漁業振興課によると、競りで決まる1キロ当たりの平均単価は今年8月時点で52万6千円と、2年前の倍に跳ね上がった。「サンゴバブル」ともいえる事態だ。これを受け、魚の価格下落にあえぐ室戸、足摺沖の漁師が宝石サンゴ漁にシフトしている。県が許可するサンゴ漁の漁業者は09年4月末の152人から、今年7月末には213人に増えた。
釣りの腕の良さで土佐清水の住民に「エース級の漁師」といわれる岩田さんは、「本当は大物の魚を釣るのが好きやけど」とつぶやく。「まさか魚を釣らん漁師するとは思わんかったよね」と妻の喜志さん(48)。今後もサンゴの高値が続くかどうかはわからない。だが、少なくとも今は、サンゴ漁の方が採算がとれるのが実情だ。
今年、宝石サンゴはにわかに世界の注目を集めた。3月のワシントン条約締約国会議でクロマグロとともに流通規制が議論されたからだ。
サンゴ漁を40年続ける笹本忠孝さん(66)によると、高知では船から網の束をぶら下げて水深100メートルまで沈め、潮の流れに漂わせたままにする昔ながらの漁法でサンゴを取っている。県漁業振興課は「漁獲の8~9割はすでに折れて落ちたサンゴで、むしろ資源を有効活用している。漁獲量も減っていない」という。
ただ、宝石サンゴの流通規制の議論が再燃する可能性もないとはいえない。その場合にそなえ、農水省の補助を受けて高知大学などの研究グループによる生息状況の調査・管理も始まった。
魚が安くなれば、腕のいい漁師すら食べられなくなる。そんな事態を避けるため、各地の漁協は魚のブランド化に力を入れる。例えばサバの場合。1本1300円の清水サバに対し、全国的なブランドのある関サバは5000円で売れる。関サバはマサバ、清水サバはゴマサバで魚の種類が違うためまったく同じものとして比較はできないが、魚のブランド志向は強まっているようにみえる。宝石サンゴ
「魚はいまや食糧でなく嗜好(しこう)品になってしまった」。黒潮町でカツオ一本釣り船を運営する明神水産前会長の明神照男さん(75)はこう話す。食べ物としての魚のありがたさよりも、希少価値ばかりが重視されていると感じるためだ。
最近、消費者と話をする機会があると、明神さんはこう伝えるようにしている。「『新鮮な魚を』『おいしい魚を』と言わんでください。言われんでもじいさんの頃からそうやってきました。もっとこたえようとするとやっていけなくなります」。魚の珍しさや新鮮さを強調するためにさらに経費がかかれば、漁業経営自体が成り立たなくなるからだ。ただでさえ、高齢化による廃業や後継者の不在などで日本の漁業就業者数はこの10年で5万人、20年で17万人減少している。
安さ、または希少価値。この二つを重視するばかりでは、漁業は成立しえない。
体をはって魚を取る夫を支えてきた漁師の妻の声は、さらに切実に響く。土佐清水の岩田喜志さんはいう。「ちゃんとした値段で魚を食べて」
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